【No.291】停滞の30年は断ち切れるか…賃上げの要因は…厳しい中小…

1997年以来最大となる3%に近い賃上げが予想されている春闘。既に都区部で1月の物価指数は4.3%に上昇している。大幅賃上げで、日本経済の「停滞の30年」を断つ構造変化は起こせるだろうか。企業に持続的な賃上げで人材獲得競争を勝ち抜く経営力が問われる。2000年代から日本経済の生産性低下を警告してきた日本貿易振興機構アジア経済研究所所長深尾氏は「世界で今投資するなら日本国内。人材を確保しないと経営者は後悔する」と話す。海外経済が低迷する一方、国内需要は比較的堅調で人手不足も深刻化しているからだ。政府が賃上げを要請するのは物価高による国民生活への打撃を吸収したいからだ。グローバル企業も海外に比べて安すぎる国内賃金の底上げが急務だ。賃上げの要因は次のように考えられる。

  1. 内外賃金格差が突然表面化し話題となったのは熊本の例だ。半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が新工場で採用する新卒者について、いきなり28万円の初任給を提示した。熊本県の技術系大卒初任給は20万円前後に過ぎず、周辺企業は人材流出に身構えている。初任給や賃上げは業界横並びで抑える慣行に風穴が空いてきた。高賃金を払える企業に人材が集まり、払えない企業は人材が離れる。
  2. 国内でも人材引き留め(リテンション)が経営の切実な問題だ。金融業界の転職市場に関してリクルートの分析によると、2009年~2013年を1とした時の異業種への転職は17年以降2~3倍に増えた。同業種への転職率は下がり、コンサルタント会社などへの転職率が上がっている。日本生命保険は営業職員5万人の賃金を7%引き上げる方針だ。今後メガバンクなども大幅な賃上げで追随する。
  3. 大企業などでは賃金テーブルの見直しなど人事制度の改革が進み、能力や成果に応じた給与を支払う土俵ができてきた。多くの企業が年功賃金の色彩が濃い職能給の比率を下げ、仕事の責任の大きさなどで決まる職務給の比率を上げてきた。結果として生産性に応じた給与の支給がしやすくなった。
  4. 人材配置の見直しを促すデジタル化投資もやっと本格化してきた。情報処理推進機構が21年486社のデジタル化の推進状況を分析した。全社的な取り組みで及第点を得た「先行企業」が前年比倍増した。人手をデジタルに置き換え、生産性を上げている。デジタル化の人材の確保が賃上げに拍車をかける。

30年前の賃上げと今回では一律アップか、そうでないかで異なる。企業間格差が広がるだけでなく、従業員も等しく賃上げが行き渡るのではなく、その年収にも格差がかなり出る。賃上げで「停滞の30年」を打ち破るきっかけになるだろうか。日本経済研究センターによると、今春季の賃上げ率(主要企業、厚労省調べ)は昨年2.2%を上回る2.85%。だがこれでは直近の消費者物価指数の伸び率を下回る。賃上げ原資を確保する上でも、値下げではなく適正な利潤を確保する商品力の強化は欠かせない。そのためのもリスキリングなど人への投資を通じて開発力を底上げさせる必要がある。賃上げを日本全体で実感するには大企業だけでなく就労人口の70%を占める中小企業にまで行き渡らせる必要がある。全国中小約2300社を対象に商工中金が22年11月~12月に調査したところ、23年の賃上げ率は1.98%の見込み、昨年実績1.95%比では横這いだ。しかし調査で回答した企業の72.5%が23年の定例給与・時給を引き上げると回答した。13年の17.6%の約4倍になる。23年春闘は大企業を中心に物価高を上回る賃上げの方針示す経営者は多いが中小企業を置き去りにした賃上げでは景気の浮揚は期待できない。人材獲得競争の中で中小も賃上げは必須だ。組合という交渉形態のない中小も、地域で経営者同士が信頼関係のある組織をつくり、賃上げを常套化する機運高めることが必要だ。今年4月からの残業時間割増率2倍になる壁も業務量を効率化して、時間外労働を削減する。原料コスト上昇の価格転嫁の課題は難航している。昨年末公正取引委員会が原材料や人件費コスト上昇を取引価格に反映する協議を開かなかった佐川急便やドン・キホーテ、デンソーなど13社を公表した。中小企業にとっては厳しい環境だが、足元のインフレは賃上げの重要性を突き付けている。23年春闘の焦点は人材確保の観点からも、70%を占める中小企業がどれだけ賃上げが出来るかにかかっている。

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