【No.297】FRB・6月利上停止…景気後退は…年内利上げ

3年余り続いた日本のパンデミック対応は、新型コロナの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同等の「5類感染症」に移行した。日本の経済活動は本格的にコロナ前に向けて動き出した。世界経済も同様に経済活動を再開している。しかし以前と異なる点が浮き彫りになった。それは権威主義と民主主義の対立が鮮明になったことだ。事実G20(先進20ヵ国・地域)はまとまりを欠いてから久しく、G7(先進7ヵ国)は民主主義の価値観を共有するグループとして団結を確かめ合っている。またグローバルサウスと呼ばれる国は、権威主義と民主主義の国々の間で独自の立場を確立しようとしている。この構図は、世界がグローバル化から多極化へ向かう現象を表している。世界的に労働人口が減少に転じている状況で、この対立は世界経済をディスインフレ時代の終焉へと導いている。

欧米はインフレ抑制のため利上げを含めて金融引締め政策を継続している。FRB(米連邦準備制度理事会)は5月で0.25%利上をして、2022年3月からの利上げの累計は10回で5%に達した。過去と比べると今回は2年半かかる利上げを1年余りで一気に上げた計算だ。米国は24年に大統領選挙が行われる。今抱えているインフレ抑制の問題を先送りすることはできない。この問題が難しいのはパンデミック後の世界政治の構造変化と、米国の人口動態の変化という構造的問題が大きく影響を受けている点だ。米国も高齢化の進展で労働人口が減少している。戦後のベビーブーマーで生まれた世代は60歳を超えて多くは引退し、パンデミックで早期退職する人も増えた。結果55歳以上の労働参加率は低下し、経済活動再開後も回復していない。一方25歳から55歳までのプライム世代の労働参加率は23年4月までで83.3%と19年の水準を上回っており、労働力の供給余力はすでに乏しく、グローバル化の時代のように海外での供給余力に依存することも難しく、国内の需要を抑制することで需給をバランスさせない限り、インフレを抑制することが難しくなった。急ピッチの利上げがインフレ抑制の効果をもたらすには少し時間がかかるため、FRBは今後も金融引締めの政策を継続していくと考えられる。

ただこの急ピッチの利上げの結果、短期証券で運用するMMF(マネーマーケットファンド)と預金金利との利回りが大きく開き、銀行預金(3か月定期1%弱)からMMF(年利回り4%強)などへ資金シフトが起こり、しばらく続いていくだろう。この資金シフトで銀行の融資態度は厳しくなり金融引締めが強化され、信用格付けの低い債券の価格は下落した。また不動産市場も米国REIT(不動産投信)のインプライド・キャップレートは平均5%後半だが、米国の政策金利が5%を超える状況では、米国での不動産投資もマイナスで深刻な影響を受ける。そして経済成長にもボディーブローのように効いてくる。過年度では企業は決算で利益を生み出す余力があった。昨年は価格転換(値上げ)で、今年はリストラ(余剰設備、人員の削減)で利益を確保できた。しかし企業の利益を作り出す余力は乏しくなった。銀行の貸し出し態度が厳しくなる中、企業の資金繰り逼迫や資本コスト上昇が、次第に体力を奪い始める。米景気は企業活動にブレーキがかかり景気後退局面に入る可能性も否定できない。

FRBは14日米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置くと同時に、年内の到達点の見通しを引き上げた。粘り腰の米経済や根強いインフレ圧力が背景にある。将来に急激な景気の冷え込みを招く引締め過ぎへの不安も増している。利上げは11会合ぶりに止まったが、年内の政策金利の中央値は5.6%に引き上げられた。足元の金利が5.0~5.25%。0.25%ずつの利上げ幅なら、次々回の9月会合まで終結できない。金融市場はこれまでのFRBの主張に反して年内利下げ転換を予想したが、利上げ終結の「夏越え」を市場は認識しFRBのシナリオに対応する形となった。しかし今後2回の利上げ示唆は、多くの市場参加者の予想に反するサプライズとなった。FRBの到達点は不確実性のまま終盤を迎える。

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