【No.300】中国経済の異変…景気減速で神話は綻ぶ…対外強硬と処理水

中国の経済指標が軒並み悪化し、デフレ懸念も出ている。ただ低成長に移行するための国内要因が大きく、海外への波及効果は限定的だ。過剰債務の円滑な処理が軟着陸のカギを握る。米国を中心に中国悲観論が発進されるのも、中国脅威論と裏表の安堵感もあるからだろう。次に実態を分析してみよう。

中国経済の課題は次の3点に要約できる。① デフレ懸念は物価の動きで明確だ。7月の消費者物価はマイナスに沈み、卸売物価は10か月連続して下落している。投資や消費への意欲が冷え込み、需要不足が鮮明だ。「昨日より明日はよくなるという「中国の夢」が急速にしおれ、20年代後半の成長率が3%台に低下しても不思議ではない。(日本総研三浦主席研究委員)、② 過大債務だ。不動産不況は業界大手の恒大集団を米国での破産申請に追い込み、最大手の碧桂園の業績悪化が表面化した。日本は土地神話の崩壊が金融システム不安を招いたが、中国は膨張した公的債務が地方政府の財政を圧迫している。中国の不動産投資関連の需要は国内総生産(GDP)の3割を占める。地方政府は土地の利用権を開発会社に売却し、その利益でインフラなど投資に振り向けて経済成長を実現してきた。そのために融資平台という第三セクターを使ってきたが、いまやその経営悪化が深刻だ。国際通貨基金(IMF)の推計によると中国の政府債務は国内総生産(GDP) 比77%だが、融資平台などの隠れ債務が2010年代急増しその債務を含めると22年101%、27年には149%に上昇し、日本に次ぐ借金大国になる。財政悪化は、高齢化の加速で社会福祉費が増大することへの備えを危うくする。③ 人口動態の急激な変化だ。一人っ子政策の見直しが遅れ、22年の出生率は1.09と報じられ、日本を大きく下回る。若年層の失業率は20%を超える。工場労働者などの求人はあるが、IT企業などの就職を目指す若者が多く、ミスマッチが拡大している。定職に就かなければ結婚も簡単ではない。受験競争を潜り抜けた大学の新卒者1100万人が毎年労働市場に参入する。そこで雇用悪化に直面するとしたら、将来不安が強まり、消費に勢いが出ないのも自然だろう。

08年のリーマンショックでは中国は4兆元、当時の為替でレート57兆円の財政出動を決断し、世界経済の苦境を救った。なぜ今回はできないかは高度成長に軌道を戻すにはコストがかかり過ぎるとする中国当局の判断がある。不動産不況のきっかけは、財政の巨額のバラマキが不動産の投機の対象となり、持続不能なブームを招いたことにある。そこで投機を批判し、見直しを進めたのは習近平国家主席自身だった。金融政策では2015年8月中国人民銀行は景気テコ入れが狙いで、突然人民元の切り下げを発表した。市場は通貨切り下げ競争を連想し元売りを浴びせ、中国政府は巨額の外貨準備を取り崩して人民元を買い支えざるをえなかった。大胆な金融政策には副作用が伴う。中国人民銀行は小刻みに利下げをしている。

中国経済の課題、デフレ、過大債務、少子高齢化、の3の課題はいずれも中国国内の要因だ。習近平指導部は米中対立を背景に、「自立自強」を唱え、輸出主導型からの転換を目指している。軟着陸は過剰債務を整理し、デフレ心理を緩和できるかどうかにかっている。

少子化で低成長を強いられることは中国も分かっていたが、これほどの不動産不況や若者の失業率は想定外だった。生活を豊かにしてくれるから、中国の人々は共産党の支配を受け入れてきた。この前提が崩れたら、共産党体制がきしんでしまう。そんな不安が、習近平政権の対外行動をさらに強硬にする恐れがある。東電福島原発の処理水の海洋放出で、中国は日本からの水産物の輸入を止め、強い圧力をかける。これは習政権が深刻な内憂に直面していることと無縁ではない。中国による対日強硬の一因が国内政治にあるとすれば、処理水の安全性を議論するだけでは緊張緩和は進まないだろう。対立による反日デモや軍事拡張を防ぐため、中国要人と対話を保ち、共産党中枢で何が起こっているかを把握する必要がある。そのうえで習近平政権と意思の疎通を図り、互いに理解を深められるかが日中関係の行方を左右する。

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