【No.302】米中対立の行方…米国のパワー…長期習政権…最低合意の会談

米国はウクライナの自衛努力を引き続き支援すると同時に中国に対し台湾の盾となれるか、米国の軍事力の大幅低下で二者択一しかないとする見方は、誤った仮設に基づいている。この仮説によれば、米国一極時代は終わった。そして世界は第二次世界大戦まで数世紀続いた権力分布の構図に逆戻りするという。それは多極構造をさす。確かに米国は1990年代ほど圧倒的な優勢ではない。当時の米国は軍事・経済・技術すべての面で歴史上類を見ない圧倒的優位を誇っていた。多極構造とは、世界の頂点に3以上のおおむね対等の大国が存在しなければならない。今は米中と肩を並べる第三位の国はドイツ・インド・日本・英国など多数存在するが、米中に肩を並べるにはほど遠い。むしろ世界は2極構造だった冷戦期以上に1極構造に近い。中国の勢力伸長は著しいが、最大級に開いた力の差を埋めるには長時間が必要だ。軍事面で米国は真の意味でのグローバル規模の軍事力を持つ唯一の国で、当分この状況は変わらない。米政治学者バリー・ポーゼン氏が「コモンズの支配」と呼ぶコモンズを手にしているからだ。それは国際共有財のことで、大気圏、公海、宇宙空間を指す。この能力の維持に必要なシステムを13項目に分類して計測したところ、中国は5項目を除き米国の20%を下回り、米国の3分の1を超えるのは2項目に過ぎない。このデーターからすれば今でも米国は超大国である。現在、安全保障に関してアジアか欧州かの二者択一を迫られる状況ではない。ただし米国が圧倒的優位を誇った90年代~2000年代初めの状況とは異なる。現在ではアジアと欧州いずれについても、安定維持に同盟国の協力への依存度が高まっている。

米国が多くの同盟国を持ち、世界で最も生産性の高い経済大国の大半が名を連ねているという事実は重要だ。仮にロシアを中国の同盟国とみなしても、米国および米国の同盟国との間には大差がある。ウクライナがロシアの軍事力に驚くべき抵抗をしているのは何よりの証拠だ。重要なのは、米国・欧州.アジアの同盟国の協調行動だ。それが米国だけ、欧州だけであったら、ロシアがより多くの領土を制圧したことは確実だ。また台湾に関しては効果的に中国を牽制するにはアジアは勿論、欧州の同盟国からの広範囲な協力が必要となる。欧州はアジアにほとんど兵力を展開していないが、経済も重要な抑止力であることを忘れてはいけない。欧州企業の協力がなかったら台湾支援に経済的手段を活用する試みは水泡に帰すだろう。

中国の対外政策の主軸は長期的な米国との競争にある。習氏は世界には一つの現代化モデルがあるわけではないし、正しいとする現代化には標準はない主張する。現代化とは西洋化・西洋文明こそが現代文明だという錯覚を広めただけだ。「自由民主」を掲げる先進国こそ貧富の差が激しく、社会的分断が激しいと断言する。米国中心の安全保障網、西側の主導の秩序を否定しながらも、国連での西側との協力の可能性を残している。3期目に入った習政権はいまだ後継指名していない。2033年まで主席であり続ける可能性は高い。制度面での中国の歩み寄りは想定しがたいが、長期的競争では衝突しない、協力すべきは協力するという姿勢は維持される。中国は電気自動車(EV)や太陽光発電など質の高い産業にこれからの経済成長を託そうとしている。しかし新産業だけでは、これまで中国を支えてきた不動産セクターの落ち込みは埋められない。不動産は家計資産の80%を占めているからだ。9月不動産価格の下支え対策を強化したが、住宅価格は下落し家計資産は目減りした。国民が安心して消費出来る環境を回復させるためには、不動産市場の安定化はもとより、社会保障や医療など国民の安心に繋がる構造改革の実施が必要だが簡単な話ではない。一方、米国はロシアのウクライナ侵攻と中東情勢という二つの世界的危機に対応しさらに中国との衝突のリスクがある。大統領選を前に中国を含む三面の危機は避けなければならない。権力集中が進む習氏と米国は首脳会談で軍事対話の再開に合意し、両国は正面衝突避ける最低限度の保障の枠組みを回復した。米大統領選まで約1年、友好ムードを演出した対話だったが合意が長続きするか心もとない。

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