【No.304】期待される景気回復は…カギを握る春闘…穏やかな回復(CF三菱UFJコンサル研究員小林真一郎氏)

景気は穏やかに持ち直しているが、物価高の影響によりペースは鈍いが、金融政策会議で日銀は24年度物価上昇2.8% から2.4%に下げた。物価上昇自体は問題ないが、長期化すると将来への不安から、家計の消費活動や企業の投資行動にマイナスの影響を与える。コロナ禍後の需要回復が一巡する中、2024年の景気回復は継続できるかどうか、物価高の行方とともに春闘での賃上げ率に大きく左右されよう。

新型コロナの感染による景気へのマイナス効果が消えて景気は穏やかに回復している。特に実質GDP成長率は4~6月期にはコロナ後の経済社会活動の正常化の動きが加速し、支出抑制されていた宿泊・飲食サービス、レジャー旅行業など個人むけの需要が一気に増加した。また先送りされた更新投資や情報化投資に加えて、前向きの投資が増加し、景気全体を底上げした。更に半導体など部品不足による自動車の生産制約が解消に向かい始め、4~6月は個人消費や輸出が伸びて、GDP成長率は前年比+1.1%と高い伸び率となったが、7~9月期は前年比-0.5%とマイナス成長に陥ってしまった。景気が穏やかに回復するなかでスピード調整に動きがある。内需の柱である個人消費と設備投資が2四半期連続でマイナスになった点だ。こうした内需の弱さの原因は物価高の進行で中でも個人消費はサービスへの支出が続く一方、価格高がすすむ財への支出を抑制する動きが広がっているからだ。

物価上昇することは、デフレの脱却が長年の課題である日本にとっては望ましいが、物価高が長期化すると、将来への不安が高まって節約志向が強まり、家計や企業が消費を控える懸念もある。海外経済の減速や人手不足を背景とした供給制約といったマイナス材料で景気回復のテンポが鈍るリスクも指摘される。

2024年も景気回復が継続できるかは物価高の行方とともに、春闘での賃上げ率に大きく左右されることになる。23年春闘の賃上げ率(定期昇給込み、厚労省調査)は、22年2.2%に対して3.6%と30年ぶりの高さとなった。政府は今年も更なる高い賃上げ率達成することを期待しており。税制面で優遇措置が取られている。また連合も24年春闘に向けた統一要求で、定期昇給分を含めた賃上げ目標を23年度の「5%程度」から今年は「5%以上」とする方針を示している。さらに賃上げに前向きな姿勢を示す企業が増加するなど、賃上げの実現に向けた動きがあるが、雇用の約7割を支える中小企業への波及は賃上げ原資を作るハードルは高い。原材料の値上げ分は転嫁できたが、電気代や輸送費の高騰分は自社で工夫した。労務費(人件費)は相談できていない。これらを価格転嫁によってしっかり利益が出せれば今後も賃上げ続けたいと漏らす企業もある。連合の集計による昨年の賃上げ率の平均は3.58%にたいして組合員300人未満の中小では3.23%経営体力が弱い中小は賃上げに慎重な姿勢も目立つ。日本商工会議所の小林健会頭は19日「中小も臆することなく価格転嫁の交渉を」と呼び掛けている。しかし会員企業でコスト増加分を「転嫁できていない」企業は12%、労務費に限っては企業の27%を占めた。

企業が大幅な賃上げに踏み切場合。コストを販売価格に転嫁できるかなど、多くの不透明要因がある中で前年実績を大幅に上回る賃上げは難しい。だが人手不足が深刻化する中で24年4月から時間外労働時間の上限が自動車運転業務で960時間、建設業で720時間に制限されることによって人手不足が賃金水準全体に影響を及ぼす可能性もある。物価高の圧力も原油など資源価格がピークアウトし、エネルギー価格は下落に転じ、消費者物価も生鮮食品を除くと伸びが鈍っている。コストプシュの要因であるエネルギーの価格の下落が続くことで、24年後半に物価高圧力も2%を割り込むだろう。こうした消費を取り巻く環境が好転し個人消費は増加基調を維持し、生産制約が解消した自動車の輸出が回復し、円安効果でインバウンド需要も期待される。世界的にも半導体需要が底打ちしている点も、景気のプラス材料となる。今年度日銀のマイナス金利解除やFRBの利下げなど課題はあるが、24年景気は穏やかな回復が続くと予想される。

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