【No.305】米高圧経済の3つの注目点…米株の限界とは

経済学者アーサー・オークンがかつて「高圧経済」を提唱した。それは景気を刺激的な政策で展開することで、国内総生産(GDP)の伸び率を平均以上に押し上げ、同時に失業率を引き下げることで、力強い景気拡大を実現し、特に弱い立場にある人々の雇用を大幅に増やせるという考え方だ。これはバイデン政権が追求した政策でもあり、今のところそれは成功している。1月の非農業部門の就業者数は前月比35万3000人増え、その増加幅は多くの識者の予想の倍に達した。しかもすべての業界と職種で雇用が増加した。求職者1人当たり求人件数は1.4倍と、過去の水準を大幅に上回った。労働市場は現在、少なくとも1960年代以降で最も力強い動きを見せている。さらにインフレ率は許容できる水準まで下がり、株式市場は活況を呈している。イエレン財務長官が指摘したように米経済は「スピードと、公正さという両面で見事な」復活を遂げている。では高圧経済の問題点は何か、いつも圧力が上に向かってかかるとは限らないことだ。

1つ目の圧力は現在の景気のサイクルが通常とは異なっている点だ。驚異的高騰している株式相場、実行された財政刺激策の規模、予測不能な地政学的な動き、そして020年の景気後退とその後の動き、どれも過去のパターンとは異なるという事実だ。具体的にはコロナ禍に伴う消費の変化(最初はモノ、今はサービスへの支出)やサプライチェーン(供給網)の見直し、過剰貯蓄や過度な財政支出がもたらした潜在需要の蓄積、インフレによる消費の減退、中国が発する混乱した兆候などが挙げられる。

2つ目の圧力はデーターが示す経済状況と人々感じている経済にギャップがある点だ。米国では雇用拡大が続き、賃金が上昇しているため、所得増を上回るベースでインフレ率が上がるという危機感は相殺され、経済への不安は和らいでいる。しかし現状は中間層が日常生活に不可欠なモノ・サービスのインフレ率は上昇している。米国では緊急時の医療費と借金が貧困の原因だが、成人労働者の半数以上が医療費の支払いに苦慮している。また米国民は長期的な経済面での脆弱性に関する不安は深刻さを増す。米国はすぐに就職できるが、解雇されるのも早い。世界の他国と比べ米国は豊だが安心し暮らせるわけではない。

3つ目の圧力は今の市場の本質だ。筆者は株価や住宅などあらゆる資産価格が上昇続けるは「全てがバブル」で、早晩崩落すると指摘したが、結果的にそうならなかったことを認めよう。多くの企業が利益を上げ、先行き好調が続くとすることが株価高の根拠だ。だがプラットフォーマーと呼ばれる一握りのテック企業への投資の集中は正当化できない。少なくとも圧力弁が緩んだら何が起こるか予断を許さない。※参照 (G・Bコラムニスト:ラナ・フール-ハー)

主要な株価指数が最高値更新を続ける米市場「1990年代後半の再来」を巡る議論が熱を帯びている。大幅利上げ後に経済の軟着陸を達成した経緯や、革新的な技術を持つテック企業が相場をけん引する構図が現在と重なるからだ。当時は株高が数年続きIT(情報技術)バブルがはじけた。今回も米株相場も90年代後半と同様に好調だ。S&P500は利上げの後の調整局面を経て23年24%高、24年2月末までに7%上昇、3月1日最高値を更新した。技術革新への期待が相場を引っ張る点も似通っている。だが夢や希望ばかりで収益面で強力な裏付けがなかった90年代後半とは違う。多くのテック企業が実際の利益や現金収支を伴っている。23年10~12月期アップルなど巨大テック5社の純利益は合計で100億㌦(15兆円)を超え、前年比60%増の急成長続ける。生成AI向け半導体需要拡大でエヌビディアの四半期純利益も8.7倍の122億㌦に達した。S&P500 のIT業種平均のPER(株価収益率)も2月末は36倍と22年末より高くなったが、60倍を超えていた1999年末ほど過熱感ない。バブルであるか否かリアルタイムで把握するのは至難の業だ。最高値に湧く株式市場、投資家は期待と実態の乖離が過度かどうか絶えず検証する作業が欠かせない。

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