【No.307】企業は金利より円安に関心…止まるか円安…年末は穏やかに円高

日銀がマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに利上げに踏み切ってから19日で1か月になる。預金等の金利が上昇は小幅で「金利のある世界」に対し、企業や個人は冷静に対応している。ただ外国市場では、日銀の利上げにもかかわらず円安・ドル高が進行する「想定外」の展開となっている。金利上昇を懸念する企業が金利の見通しを確認するのは当然だが、それよりも為替を懸念する声が多くなっている。

マイナス金利解除前日の3月18日には、1㌦149円台だった。マイナス金利の解除で為替市場は円高に動くとの見方が強かったが、1か月間強で約5円も円安が進み、15日には154円台まで下落し、34年ぶりの安値を更新した。1、日銀が「当面緩和的な金融環境が続く」(植田総裁)という姿勢を強調しているのに対して、米景気が底堅くインフレの鈍化も緩やかなため、米連邦準備理事会(FRB)による早期利下げが後退している。このため、日銀のマイナス金利解除でも日米の金利差が縮まらないとの見方が円安進行に繋がっている。財務省・日銀による為替介入の観測もあるが抜本的解決策には至らない。為替政策は日銀の所管ではないが円安が経済物価情勢に無視できない状況に成れば、金融政策の対応を考える(植田総裁)。

大幅な円安で輸入物価の上昇が加速する可能性もある。中東の地政学リスクの高まりから原油価格にも上昇圧力がかかる。「先行きの物価見通しを引き上げ、追加利上げを後押しすることになる」日銀が追加利上げに動けば大手銀行(現在1.475%)も短プラを引き上げる可能性が高い。個人の住宅ローンの変動金利や中小企業向けの融資金利の基準になっており、「国民の生活に影響が出る」(財務省幹部)。このため次の利上げはマイナス金利解除とは別の難しさ生じる。

日銀は26日の金融政策決定会合で、現在の政策を維持することを決めた。短期の政策金利を据え置き、国債を買い入れる額を維持した。急速に進む円安について、「基調的な物価上昇率は今のところ、大きな影響を与えているわけではない」と植田総裁。現時点で、円安の影響を理由にした利上げには否定的な考えを示した。また円安が賃金と物価の循環に無視できない影響を与えそうなら「金融政策の判断材料になる」とし、利上げで対応する可能性を示した。日銀が合わせて公表した「経済・物価情報の展望」で2026年度の物価上昇率の見通しを1.9%とし、これで5年続けて日銀が目標とする2%前後が続く見通しとなった。

次の焦点の追加利上げについては「目標達成の確度は継続的に上がっている。物価見通しに沿っていけば、金融緩和を調整する理由になる」と言及。時期は明言しなかったが、利上げに前向き姿勢を示した。

外国為替市場では円安・ドル高に歯止めがかからなくなってきた。日銀が円安に対して何らかの対策を打ってくるとの市場の見方は肩透かしとなり、円安の歯止め役が不在の状況で、1㌦160円も視野に入ったとの見かたが浮上した。前週末26日のニューヨーク市場で1㌦158円台半ばまで下落した円相場は、29日朝158円前後で取引を始めた。日本が祝日でも、為替市場は海外取引されている。この日大きく動いたのは日本時間10時30分ごろ、まとまった売り注文がでると円安が加速、円買いが一気にひいてフラッシュ・クラッシュ(一瞬の急変動)のような動きとなった。158円台から160円24銭まで急落し34年ぶりの円安・ドル高水準を更新した。再び動いたのは午後1時過ぎ。円高の揺り戻しが一服して再び下落そうなタイミングで、大規模円買いが断続的に入り、1㌦6=155台まで上昇した。この日は安値160円24銭から高値154円40銭まで6円近く円高に振れた。今回は5兆円規模の介入とみられている。

パウエル議長はインフレ鎮静化には時間が掛かるとの見方を示したが、過度の円安には政府・日銀が為替介入に踏み切るとの姿勢が鮮明になった。24年後半から25年にかけて他国の中銀が利下げに転じ、日本の貿易収支も徐々に黒字転換し、円高が進行するだろう。日米金利差で見る円の「理論値」は142円だが、予想される円安に振れる可能性を警戒しつつ方向性としては今年末1㌦145円と穏やかな円高になる。

ホットライン一覧へ戻る

おかげさまで100周年

株式会社 東京木工所
株式会社 東京木工所
所在地
東京都渋谷区広尾1-13-1
フジキカイ広尾ビル4階
電話番号
03-5422-7901(代)