【No.308】岐路に立つ中国経済…新質生産力計画の誤り…危惧される国家安全保障優先

中国は鄧小平氏が開放改革路線による大改革を1990年代に始めて以来、最大の経済試練に直面している。同国経済は昨年、5%の成長を達成したが、数十年にわたる奇跡的な成長を支えてきた主要な柱が揺らいでいる。勤勉さで名高い労働者の数は先細りとなり、歴史的な活況を呈した不動産ブームもはじけた。中国はグローバルな自由貿易体制を利用して豊かになったが、その枠組が崩れつつある。

従来型の成長モデルが限界を迎える中、中国政府は高付加価値戦略などで新たな成長戦略を打ち出す。それは3月に全人代(国会)での李強首相の政府活動の中で何度も口にした言葉「高質量発展(質の高い発展)」で、習氏が打ちだしたスローガンだが定義ははっきりしない。経済のみならず社会発展に対する要求と説明する。企業が付加価値の高い製品・サービスを提供する事業に転換することで、中国全体を発展させる考えと見られる。また同氏は今年の中国共産党会議でも「高質量発展は新時代の優先事項でそれを後押しするための基礎を固めなければならない」と発言。中国政府は製造業のデジタル化や再生可能エネルギーを増やすグリーン化などを掲げている。足元の中国は従来型の成長モデルが限界にきている。長らく経済をけん引してきた不動産バブルは崩壊し、浮上の兆しが見えない。20年以降加熱する不動産バブルを抑制するために不動産会社に対し財務指針や融資の総量規制を課した。結果、不動産市況は一気に冷え込んでしまい、24年1~2月の新築不動産販売は前年同期比29%減、同開発投資も9%減と規制から2年経過した現在でも市況は低迷しており、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)などの不動産大手は軒並みデフォルトに陥った。また歳入を土地売却に頼り、不動産活況で成長を実現してきた地方自治体は資金難に陥っており、今後一層の厳しさが予想される。11月の米大統領選挙で誰が当選しても米国が中国製品の輸入規制を強化し中国企業にペナルティーを科すと想定される。中国の対応策は景気浮揚策のために大規模な消費喚起という伝統的手段はとらない。「新質生産力」と呼ぶ先端製造の発展を加速させて、生産性の高い雇用を生み出し、製造業の自給率を高めて、米国の攻勢から自国を守ろうとしている。鉄鋼業や高層ビル建設といった段階を飛び越え、電気自動車・バッテリーの大量生産やバイオ技術を生かした「バイオものづくり」、ドローンを活用した「低空経済」の育成などに取組み、経済の黄金時代を実現することを目指している。新質生産力への投資額は年間1兆6000億㌦(243兆円)で中国の年間投資の20%に上り、名目で5年前から倍増した。一部の産業では工場の生産能力が30年までに75%以上増加する可能性がある。習氏の目的は世界経済における力関係を逆転させることにある。中国が欧米技術依存の脱却のみならず新産業を支える知的財産の多くを握り使用料を徴収することを目指している。しかしこの計画には誤りがある。第一の間違いは個人消費の規模は不動産や新質生産力関連規模よりはるかに大きいが不動産不況の中で消費を喚起するには景気刺激策が必要だ。所得を貯蓄から消費に回すよう国民に促すには社会保障や医療サービスなど充実が欠かせないが、習氏は倹約志向で消費喚起に消極的だ。第二の間違いは国内需要の不足分を先端製造製品などの輸出で補おうとしている点だ。欧米では2000年代と異なり輸入規制などで自由貿易体制ではなくなってきており、グローバルサウスの新興国も中国の輸出攻勢で新たな中国ショックがおきれば、これらも限界がある。中国の工業生産は既に世界の31%を占めており、拡大余地は限られる。第三の誤りは過去30年間経済成長を支えてきた起業家に対して習氏が自己流の規制を定めたことで彼らが不満を抱き追放や逮捕を恐れている。資本逃避や経営者の海外移住の兆しもある。起業家が活動の自由を取戻さない限り、技術革新は滞り資源は有効に活用されず無駄になってしまう。
 
また習氏の政策が、経済繁栄より国家安全保障を優先するようになった。この政策は代償をはらっても米国との戦いへの備えを最優先する発想だ。この影響は中国のみならず世界中を巻き込み波及するだろう。

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