【No.278】円の購買力、50年前の水準…進むか円安…物価上昇は

欧米の通貨に比べ、日本の円はモノを買う力が強いか、弱いか。そんな通貨の購買力を示す国際指標で、日本の円が約50年前の水準まで下がっていたことが分かった。この指標は、国際決済銀行(BIS)が毎月公表しており、「実質実効為替レート」と呼ばれる。約60カ国・地域の通貨を比較し、各国の物価水準なども考慮して総合的な通貨の実力を示す。数値が低いほど、海外からモノを買う際の割高感が高まる。円安が進むと、海外旅行で何かと割高に感じるのと同じだ。この指標では、日本円は2020年5月に80以上だったが、海外でコロナ後の景気回復への期待が先行して円安基調となり、下落傾向が続いた。2021年10月に70を割り込み、11月に67.79まで下落。これは円安が進んだ2015年6月以来の水準で、1972年8月と同じ値だ。過去最高だったのは。1時1㌦79円台まで円高が進んだ1995年4月で150.85だった。当時と比べると大幅に海外のモノが高く感じる状態だ。なぜ円は弱くなったか、日本では1990年代以降、バブル崩壊後の不良債権問題などで景気が低迷し、物価が下がり続けるデフレが深刻化した。そして景気を支える金融緩和や円高を防ぐ為替介入など、円安を進める政策が続いた。2013年にはデフレ脱却を目指し、日銀が市場に大量のお金を流しこんで金利を抑え込む大規模な金融緩和を開始。低金利の日本円より金利の高いドル買が増えて円安が進んだ。

昨年の円安も同じ構図だ。昨年のドル円相場は1㌦103円で始まったが、コロナ後の経済再生への期待などから米国の金利が上昇。コロナ対応で始めた金融緩和の縮小に向けた動きが欧米で強まると、更にドル買い円売りが加速。11月には1㌦115円台になり昨年の最安値を付けた。また原油高など輸入品の値上がりも円安を後押しした。海外からモノを仕入れるためにドルを買い、円を売る流れが強まるからだ。

昨年、急速に進んだ円安がコロナ禍からの回復を目指す日本経済にも影を落とす。輸入に頼る原材料費の高騰に拍車がかり、値上げを避けてきた飲食店の体力も限界に近づいた。輸出や観光業が受ける円安の恩恵も以前ほど期待できない。今後も円安傾向が続くとの見方も多く、資源高と円安が重なり、輸入物価ばかりが上がる「悪い円安」への懸念が漂い始めた。因みに企業間取引の価格を示す「国内企業物価指数」は昨年の11月、前年同期より9.0%上昇し、過去最大の伸びを記録。9か月連続で前年同期を上回り、昨秋以降強まった円安が輸入品の価格上昇を押し上げた。値上げを避ける企業努力にも限界があり、消費者の購買価格示す「消費者物価指数」も昨秋9月から3か月連続で前年同月を上回る。デフレの象徴とされた牛丼も大手3社が昨年9月以降、立て続けに価格を引き上げた。今年1月からネスレ日本は家庭向けの56製品価格を1~2割引き上げる。2月以降、醤油や冷凍食品、ハム・ソーセージなど身近な食品の値上げを大手各社が決めている。しかし肝心の実質賃金は足元で一昨年を下回った、賃金上昇を伴わない「悪い物価上昇」の色彩が強まっている。

円安は今後も続く。欧米が昨年秋以降、金融緩和の縮小や利上げの方針などあいついで打ち出すが、日本は大規模な緩和を続ける方針だ。このため、金利が低い円より、金利に高いほかの通貨を買う動きは当面続くと見る。ニッセイ基礎研究所の上席エコノミスト上野剛志は、日本は物価目標の達成が見通せず、円安ドル高が進み(ドル買いが強まる)、原油高も続けば、今後2・3年のスパンで円安が進む可能性が高いとみる。

円安について、日銀の黒田総裁は昨年末23日の講演で「円安が物価上昇を通じて家庭所得に及ぼすマイナスの影響も強まっている可能性がある」と指摘したが、企業の海外収益への円安効果にも言及し、「円安方向の動きは、基本的にプラスの効果の方が大きい」と強調。問題視しない考えを示した。ただ15年1㌦124円台の時では円安への牽制ともとれる発言もあった。現時点で黒田総裁の思いは変わるまいが燃料や食料が上昇する中で円安による物価上昇が景気を押し下げることへの懸念が強まっている。

今年以降の世界経済を展望するとき、インフレの行方が重要なカギの1つだ。米国の消費者物価は39年ぶりの上昇率を記録。昨年量的緩和縮小に踏み切ったFRBも今期4回の利上げを含め一段の引き締めに向かう。

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