【No.280・281】地政学のリスクが…目白押しの22年..地政学的な戦略転換

日本経済を揺るがす今年の「7大地政学リスク」 日本総研国際戦略研究所理事長 田中 均(2/5 DM誌)

2022年は主要国で選挙が集中し、政治動向が国際関係を揺るがす可能性が高い。国内支持を得るために対外強硬姿勢がとられ、各地で不測の事態が起こり得る危うさをはらんでいる。新型コロナの世界的感染は容易に収束するとは考えられず、政治・経済は少なからず制約を受ける。さらに3月の韓国の大統領選挙、4月に仏大統領選挙、夏に日本の参議院選挙、秋に米国中間選挙とたて続けの選挙が続き、また中国では秋に5年に1度の共産党大会が予定され、国内政治が国際関係を揺るがす年になる。激動が予想される中で、日本はいつになく高まる地政学リスクへの基本的な戦略やいざというときに備えた対応で国民的合意を得ることが急務だ。

日本の22年の最大の地政学リスクは、

  1. 米中双方の国内政治事情より、米中が管理できない状況になることだ。習氏にとって対米関係は諸刃の剣というべきもので、反米ナショナリズムをあおり、求心力を高める側面がある一方、米国の強硬姿勢が強まれば、米中関係を管理できないことへの非難が起き指導部内の権力闘争に結びつく危険性がある。従って慎重に対処して行くだろう。米国もバイデン氏が、議会や国内の世論を考慮し、経済安全保障を掲げて対中強硬処置をとり、中国がこれに対抗する展開なれば、両国の貿易投資や経済的交流が急激に縮小する可能性がある。日本が米国に追随すれば、日中間にも厳しい影響が及ぶ。さらに米中の軍事的衝突になる可能性出てくるのが台湾有事だ。台湾に関しては米中双方に「レッドライン」が存在すると考えられる。米国にとっては中国が何らかの軍事的行動を起こすこと、中国にとっては台湾が独立に向けての明確な行動をとることだ。その一線をどちらかが越えれば軍事的衝突に至る可能性が高い。ただその間グレーゾーンがあり、意図的に有事が引き起こされる蓋然性は高くないが、偶発的な衝突に至る可能性はある。米国が軍事介入を決断すれば、日本は大きな犠牲を覚悟せざるを得ない。台湾有事に備えることは必要だが、有事を防ぐ外交的工夫を率先してしなければならない。
  2. 韓国とは1965年の基本条約成立以降、最悪の関係が続いている。徴用工や慰安婦と言った過去に関する問題が韓国側の国際法に合致しない行動のためだが、両国政府の抜き差しならない相互不信感は政治、安全保障、経済などの政府間協力関係を阻害している。この要因は韓国側に言わせれば日本の保守ナショナリスト政権の誤った歴史認識であり、日本側から言わせれば革新政権の反日政策が元凶だ。日韓双方の政権が姿勢を変えれば状況が改善されるかと言えばそれは難しい。関係悪化の要因は両国の相手に対する意識の変化にある。韓国は経済発展の結果、1人当たり国民所得のレベルでは日本に近づき、「日本何するものぞ」という意識が高まり、逆に日本は、政治、経済、文化などあらゆる面で日本がもはや優越的存在ではなくなったことへの苛ら立ちがある。韓国は今年3月に大統領選挙が行なわれるが、その結果によっては日本に対する感情的先鋭化が強まる恐れがある。さらに日韓の政治家に関係改善に余裕が見られず、日韓の感情的対立がリスクに発展する可能性は小さくない。
  3. 北朝鮮は国連などの経済制裁や新型コロナ感染防止のため中朝国境の閉鎖が続いているため、経済的にかなり困窮している。米国との非核化交渉は動かず、南北間の経済協力も凍結されており、事態を早急に打開したい思いは強いはずだ。打開のためには、米朝対話の前に「危機」を演出するギャンブ的行動に出ると思われる。弾道ミサイル発射実験や場合によっては核実験を行う可能性は十分ある。米朝対話が何らかの形で始まる蓋然性は高い。非核化があるとすれば、時間をかけての段階的な核廃棄との見返りとの組み合わせになるだろう。日本は当事者として最初の段階から交渉に参加しなければならない。94年の米朝枠組み合意のように米朝が交渉を行い負担だけ押し付けられる結果だけは避けたい。日本には拉致問題があり、非核化と拉致問題を一括して解決し国交正常化につなげる方針を加速すべきだ。北朝鮮問題の真のリスクは日本が傍観者となり、受け身で対応することで国益を失うことだ。
  4. イランを巡る衝突のリスクはかなり高く仮に武力衝突になれば、原油輸入の92%を中東に依存する日本経済には大きなリスクになる。イラン核合意の再開に向けて米国とイランの間接的協議はまとまる可能性はバイデン政権下でも極めて低い。イランはすでに核開発を再開しており、また武器化レベルに近いウラン濃縮を進めている。イラン核合意がまとまらない場合にはイスラエルによる軍事行動という新たな要因が懸念される。イスラエルはイランが核兵器国になることが中東に核のドミノを引き起こし、イスラエルの安全に著しく脅威を与えると捉えて、イランの核施設を空爆する可能性も考えられる。また同国はアブラハム合意によりアラブ首長国連邦との関係改善を正常化するなどサウジアラビアなどアラブ諸国との関係改善に乗り出しており、イランとの対立は決定的となるだろう。
  5. ウクライナにロシアが進行すれば、NATOと厳しく対峙することになる。米国はロシアが米国の警告にもかかわらずウクライナに侵攻した場合経済制裁の強化をにおわせているが、軍事介入は否定している。そのためこの地域での米国の抑止力は低下している。ロシアはウクライナ国境に軍を展開しておくだけで、ウクライナがNATOと連携していくのを止める圧力になると考えていた。今後NATO・EUとロシア、中国との関係、米国が主導する「民主主義対専制主義」の対立の状況を見極めながら国益を最大限に求めて行動していくものと思われる。中東地域やロシアを巡る問題で今まで以上に不透明感が強まっている背景には民主主義的価値を日米と共有してきた、
  6. 欧州の政治バランスがかつてなく不安定化していることがある。同盟国との連携強化を掲げたバイデン氏によって米欧関係は再活性化すると思われたが、そうではなかった。英国のEUからの離脱やメルケル独前首相の引退により、EUの求心力は低下し、ポーランドやハンガリーで強権的政権に対するEUの抑制効果も上がっておらず、さらにAUKUS(米・英・豪結成)で豪・仏との潜水艦契約が破棄され、仏米関係に亀裂が走った。4月仏大統領選挙でマクロン大統領が極右や保守政党の挑戦をうけ苦戦が予想されており、結果いかんでは欧州の安全性が一挙に崩れていく可能性がある。日本は欧州と冷戦以降も民主的パートナーシップを組んでいただけに、欧州の安定が損なわれることは日本にとって大きなリスクになる。
  7. 日本のリスクはデジタル化や、気候変動問題への取組みで世界から大きく遅れている日本自身の問題だ。米欧は気候変動に対する再生可能エネルギーやデジタル分野を成長産業捉え、コロナ禍も多年度にわたる膨大な投資を行ってきたが、日本はコロナ禍の経済対策の一環でグリーン基金などがつくられたが、米欧に比べてその規模は、はるかに小さい。コロナ禍からの経済回復を短期的視野でしかとらえることが出来ず、既得権益を壊すことにも消極的だ。石炭火力からの撤退や原子力発電の極小化、再生エネルギー技術開発への抜本的な投資など、大胆な発想の転換による資金投入が出来ていない。デジタル化でも中東のUAEは政府機関の完全ペーパーレス化を達成した最初の国家となり、DX(デジタルインフォメーション)を急速に推進している。このままでは、米欧・中国だけでなく世界との間でもテクノロジーギャップが拡大し、この30年間の停滞が続けば、不測の事態が起きた際の耐性は弱まるばかりだ。(以上2/5資料)

この2か月間でリスクが顕在化した事例が複雑に絡み合いながら世界中に脅威を拡大している。ロシアのプーチン大統領が2月21日、ウクライナ東部で親ロシア勢力が支配する地域の独立を承認した。24日には軍事作戦に踏みきり、ウクライナを巡る緊張は一段と高まった。ロシアは首都キーウの制圧へと軍を進めているが膠着状態から撤退し、東部マリウポリへ集中して空爆を続けており、事態は長期化の様相を呈している。軍事侵攻は世界の市況に天然ガス、原油などエネルギー価格の高騰をもたらした。欧米と強調した経済制裁に対し、ロシア外務省は3月21日北方問題を含む日本との平和条約締結交渉を中断すると発表した。その直後、ロシア軍はクリミア諸島で3000人以上が参加する軍事演習開始した。北朝鮮も3月24日新型ICBM「火星17」は飛行距離950㌔高度4475㌔の発射実験を行った。2017年11月以来・核実験やICBMの発射実験の自制をうたった宣言を自ら破棄した。北朝鮮は「ウクライナが1994年のブタペスト覚書で核を放棄した結果ロシアがウクライナに侵攻した」と結論つけており、今後核開発を再開し、核実験への動きが活発化するはずだ。中国の動向も焦点になる。今後ロシアへの制裁参加を巡り中国への国際世論の圧力が強まるが、中国のロシア支持が続けば、侵攻勃発に刺激を受けた台湾市民の防衛意識が一層強固になる可能性があり、中米関係も予断を許さない。ウクライナ問題はロシアの軍事進攻、領土支配の動きなど、外交安全保障の国際秩序が大きく揺らいだ。中国へのけん制や北方領土返還交渉など、対ロ戦略は練り直しを迫られる。米ロともアジアにおける安全保障戦略を図っていく状況では、北方領土問題の解決は益々困難になった。ロシア、中国、北朝鮮と近接する日本は「極東のウクライナ」か。「今日のウクライナは明日の日本」と肝に銘じた、万全の備えが急がれる。

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