【No.286】インフレ目標達成は…賃上げ持続上昇がカギに

米欧がインフレ退治に躍起になる中で、まだデフレ防止の「インフレ目標2.0」の世界にいるのが日銀だ。足元の消費者物価(生鮮除く総合)は、7月は前年同月比2.4%上昇と4か月連続で2%を上回り、年内には3%乗せという見方もある。ただ、多くのエコノミストは足元の物価上昇は資源高や円安などの外的な要因が大きく、それが一巡する23年度以降は再び1%台に落ち込むと予測する。一方国民の「体感インフレ率」は高い。食料品や電気代など身近な値上げが目立つからだ。渡辺努東大教授は今の日本の物価はなかなか上がらないサービス価格などの「慢性デフレ」とエネルギー価格など「急性インフレ」が共存する状態だという。政策対応では日銀が慢性デフレ退治のため金融緩和を続け、政府は急性インフレ対策としてガソリンや小麦価格の高騰抑制に動くという分担だが、国民からみれば政府と日銀が物価対策で逆方向に動いているように見える。

経営者も、賃金を上げないといけないという危機感が出てきたという点で従来と違うステージにきている。日立製作所出身の中村日銀審査委員は8月25日の記者会見で、上がらない物価等の代表格の賃金に変化の兆しが出始めたことを指摘した。日銀は今の物価上昇が賃上げを伴う持続的なものになるかどうか、そのカギを握るのが来年の春闘だとみる。足元の消費者物価を基準に賃金交渉が動き出せば、従来より大幅な賃上げになり、物価上昇の好循環を生み出す契機になるというシナリオだ。

日銀は「2013年に就任し黒田東彦総裁のもとでの異次元緩和」が当初の予定通りの成果を生まなかった。その一因として、人々の予想物価上昇率が足元の低インフレの影響を受ける「適合的期待形成」のためだと説明してきた。しかし足元の2%を超える物価上昇率が人々のインフレ予想を変えはじめ、いよいよ慢性デフレから抜け出すことができるかもしれない。来年4月に任期満了を迎える黒田氏にとってはラストチャンスとなる。

主要先進国で唯一、金融緩和を続ける日銀。賃上げを伴う持続的な物価上昇を実現し、米欧のような物価抑制に主眼を置く「インフレ目標3.0」に転換できるか。今回も失敗し孤独な戦いを続けるか、いずれにしてもその仕事は黒田氏の次の日銀総裁に委ねられる。新総裁のもとデフレ脱却が実現できることが期待される。

国債たまる需給にひずみ…日銀支配の終末は

世界が長期金利上昇に直面する中、日本だけが別の世界にいるかのようだ。日銀が国債相場を支配し、金利が適正水準より低く抑えられている。ひずみは大きくなっており、市場ではその終焉が突然訪れるという見方が強まっている。1998年から99年にかけておきた金利の急騰劇だ。旧大蔵省の資金運用部による突然の国債買い入れ停止をきっかけに、金利が0.6%台から2.4%台まで急上昇した。この運用部によるショックに今年6月、金利が日銀の想定を超えて上昇したため、関心が集まった。日銀は長期金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC) という政策をとり、長期金利の上限を0.25%程度とした。海外勢はYCCの修正による金利の上昇(価格の下落)にかけて国債売りで日銀に挑む、金利は0.265%まで上がった。日銀は最終的に金利を抑え込んだが、大量の国債購入を余儀なくされた。これをみて日銀がいずれYCCを修正せざるを得ないのではないか、と考える投資家が増えた。国債市場のひずみが強まる中、日銀がYCCを修正した場合、長期金利はどのように動くか。米ゴールドマン・サックスは実質成長率や物価、世界の金利動向を加味して、日本の金利の適正水準を計算した。8月の時点で0.61%があるべき金利で、市場で付いている金利より0.4%ほど高い。2013年黒田総裁が就任して以来金融緩和が続き、金利が適正金利より低く抑えられることが常態化した。その不合理をついているのが外国人投資家だ。国内で日銀が政策を転換することは低い。それは財政に大きな影響があるためだ。黒田氏の就任時と比べ普通国債残高は300兆円近く増えている。金利上昇が利払い費の増加に与える影響も大きい。金利が適正水準より抑えられて9年、国債市場に大きなひずみがたまっている。しかしYCC修正を事前に織り込ませることは難しい。日銀は混乱を避けながら適正化に道をつけられるか、それとも投資家や国民に予期せぬ金利上昇(運用部ショツク)の痛みを負わせるか、その答えは見つけられていない。

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